付録3. 在来種から品種へ
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人間の保護のもとで分布を拡大するにつれ、家畜ウシはそれぞれの土地で遺伝的に分化していったため、2000年前頃には、家畜ウシの二亜種であるゼブ牛にもタウルス牛にもそれぞれ多数の在来種ができていた 各地方に残っていた野生のオーロックスが家畜ウシ(特にゼブ牛)と交雑したことが、在来種の分化にある程度は寄与したかもしれない だが、在来種の分化のほとんどは、遺伝的浮動や、その地方の環境に文化的にも生理的にも適応したことによるものだった それぞれの在来種は品種のプロトタイプであり、後にそれを素材として育種が行われるようになり、19世紀には近代的な品種が開発された 品種という概念はヨーロッパで最初に作り出されたもの
そのため、在来種から品種への移行が最も明確に規定できるのはヨーロッパ
ゼブ牛の場合、土地によって特徴の異なるものが存在するのだが、その多くはかなり最近まで在来種の段階にとどまっていた
タウルス牛も東アジアでは同じような状況だった
タウルス牛のヨーロッパ起源の在来種は、ヨーロッパ以外の地域に今日でもいくつか残っている
南北アメリカ大陸のクリオロ系の家畜ウシは、実際は在来種 クロオロはスペインから持ち込まれた家畜や作物をもとにして、ラテンアメリカで作られた品種。クレオールと同義 それぞれ新たな環境で、大帝は辺境の不毛の地に適応してきたものであり、人間による管理の程度は場所によって異なっていた
クリオロ系在来種の遺伝子構成は、予想通り大部分がヨーロッパ系のウシ
概して、この南ヨーロッパ産の家畜ウシは、北方ルートによりヨーロッパに到達したものに比べてあまり管理されていなかった
そして、南ヨーロッパにはいわゆる原始的品種が多く、なかにはツダンカ、サヤグエサ、パフナ(以上スペイン産)や、マロネーザ(ポルトガル産)のようにオーロックスにかなりよく似ているものもいる スペインの闘牛用の品種は、もともと同じ目的で育種されたカマルグ種のウシと同様、かなり小さいとはいえ角や体格がオーロックスによく似ていることにも着目したい 他に、オーロックスにはあまり似ていないが、南ヨーロッパ産のもっと古い品種であるイタリアのキアニナやマルキジアーナなどもいる どちらの品種についても、ゼブ牛からの遺伝子移入があったという証拠が得られている 北ヨーロッパでは、最古の品種にさえ人間による影響はもっと深く及んでいる
特に乳牛ではそれが顕著
たとえばアイスランド産のウシ
島で長い間隔離されてきたが、それにも関わらず典型的な乳牛
肉牛や荷物運搬用、多目的用の品種に比べ、乳牛からはオーロックス的な性質が概してかなり取り除かれている
ゼブ牛の品種のほとんどは、各地の在来種から比較的最近になって作り出されたもの
通常、品種名は原産地を表している
ギルはインドのグジャラート州カチャワール半島のギル丘陵 オンゴールはインドのアンドヒャ・プラデシュ州オンゴール 概してゼブ牛では乳牛や輓牛などに特化した育種があまり行われていない
ゼブ牛の品種はかなりの割合が多目的である
しかし、交雑に寄るアフリカ系の品種の開発は、異なるコースを辿った
ごく最近まで、ほとんどのウシは定住農民ではなく遊牧民たちが所有していた
そのため、品種は地理的な位置よりも部族との関係が深い傾向がある
ただし、地理的な要因と部族的な要因が一致することも多い
多くの遊牧民にとって、ウシは少なくとも部分的には一種の通貨として機能しており、そのせいで遊牧民の間ではウシを食べるという行為が抑制されている
一方、アンコーレ種などでは象徴的な機能が実用的な機能を上回り、酪農などの各種用途には使われなくなっている ゲノミクス以前の研究では、家畜ウシはタウルスぎゅとゼブ牛という2つの基本的な品種グループに分けられていた
この第三のグループの存在は、北アフリカ原産のオーロックスから遺伝子移入があったことを反映しているのかもしれないが、あるいは単にユーラシア大陸のタウルス牛の品種から長期に渡って隔離されていたことを反映している可能性もある
サンガ牛など、ゼブ牛とタウルス牛の交雑による品種はまた別のクラスターを形成する 近東やヨーロッパの一部、南米、さらに北米でも雑種は普通に見られる
ヨーロッパ系タウルス牛の品種グループには、地理的な影響はそれほど強く現れていないが、それは人間が伝播に関わっているためである
とはいうものの、ヨーロッパ系品種は北ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、イベリア半島というグループに明確に分かれる
より細かく見ると、フランスでは多くの北方系、南方系、さらにそれとはまた別のアプルス系品種が近接して生息し、交雑が行われている
中央フランスとドイツの間には境界線を引くことができ、それより北では南方系の品種は一般的ではない
この境界線がヨーロッパ大陸へのローマ帝国の影響が及んだ限界と一致するのは、おそらく偶然ではないだろう また、フランスなどヨーロッパ系のウシでは、品種によって肉牛と乳牛が明確に分かれているわけではない
たとえばヨーロッパ系のブタは、品種によってベーコンタイプやラードタイプなどがはっきり分かれているが、それに比べるとウシではかなり曖昧なのである これはヨーロッパでも、食肉用のショートホーンからの搾乳など、ウシはかなり最近まで多目的に用いられてきたことを示唆している